【AKETEMO】

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夏休みの朝顔

(2010/07/11) [500色の色鉛筆]
 気の早い一番星が、まだ明るい空にぽつんと浮かび上がっている。
 それを見つけたマコトは、不覚にも涙が出そうになったのを急いでこらえた。皆よりかなり遅い帰宅時間とはいえ、ここは正規の通学路だ。誰の人目があるかわからない。小学校に入って、まだたったの4か月。帰り道にひとりで泣いているのを見られたとあっては、これから6年も続く小学校生活に、深刻な影響を与える可能性がある。
 「あんた、家でみたいにすぐ泣くんじゃないよ。学校は戦場、最初にナメられたら後が大変なんだから」
 4年生になったお姉ちゃんの言葉を思い出す。いつになく真剣な様子で言われ、妙に説得力があったのだ。マコト自身はまだその言葉を体感していないものの、「皆の前で泣くのはかっこうわるい」という事くらいはわかっていた。
 泣かないよう顔に力を入れたまま、マコトは足元の植木鉢をにらみつけた。赤茶けた素焼きの植木鉢には、持ち上げればマコトの身長を超えてしまうくらいの高い棒が3本も突き刺さっている。先生が張り切って用意した培養土はしっとりと水を含んでつややかに光る。白いプラスチック上の『かんざきマコト』という大きな字は、元気に育つようにという思いで書いたマコトの力作だった。
 このように立派な住まいをこしらえてやったというのに、植木鉢の住人たるマコトのアサガオは、ひどく気弱なやつらしい。他の子の植木鉢から双葉が生え、本葉が育っても、マコトのアサガオは一向に顔を出す気配がなかった。
 「大物はゆっくりと登場するものよ」
 そんなお母さんの言葉を信じて1カ月。『大物』がようやくその姿をお披露目したのは、夏休みがはじまる10日前だった。それっきり今日まで、本葉が生え出す様子もない。他の植木鉢に蒔かれた兄弟たちは、もうとっくに緑色のツルを、周囲の棒にぐいぐい巻きつかせているというのに。
 (この色がまた、かっこうわるいんだよなあ)
 あらためて植木鉢をのぞき、マコトはため息をつく。登場をさんざんもったいぶっていたマコトのアサガオは、既に枯れかけてでもいるように、薄くにごった黄色をしていた。そのくせ葉っぱはいやにでかく、可愛げのないことといったらない。もったいぶっていたというよりも、この醜悪な姿を見せるに見せられず、ギリギリまで隠れていたのではないだろうか。やっと芽が出た喜びよりも、見た目と情けない成長ぶりに、マコトはがっかりしたものだ。

 そして今も、マコトはこのアサガオに苦しめられている。明日から始まる夏休み中、観察日記をつけるという宿題のせいだ。この1カ月間を思い返してみるに、こいつは観察が必要なほどの成長をするだろうか。考えるだけで暗い気持ちになったが、なによりもまず当面の問題は、重い植木鉢を家まで持って帰ること。薄っぺらい大物の重さはたかが知れていたが、その身に似合わぬ豪華な住まいは、1年生のマコトには重すぎる。
 もし順調に、ごく普通に育ってくれていたら、もう少し可愛がってやれたかもしれない。そうしたら、もう少し足取り軽く家に向かっていただろう。終業式の今日は、本当ならとっくに家に着いている。いやだいやだと思いながら帰る時間を延ばし、学校から家の近い友達の家で遊んでいた。そのことはお姉ちゃんに伝えてあったが、これ以上長居するわけにもいかない。校門が閉まる直前に学校へ戻り、とぼとぼと自宅へ歩き始める。重い植木鉢を抱えては降ろし、重い足取りで歩いては休みしているうちに、すっかり遅くなってしまった。星が見えるほど遅くなった事に、少なからずショックを受けていた。時間の経過を知らされた事で、心身の疲労も倍増する。
 (重いなあ。もう、捨てて帰っちゃおうかなあ)
学校いち家が遠いマコトの正直な気持ちだ。ひとつ先の角には、小さな公園がある。そこまで頑張って運べば、もう充分のような気がした。きっとマコトの朝顔は、『かんざきマコト』のプレートがささった植木鉢が気に入らないのだ。それならば彼(か彼女か知らないが)の意思を尊重して、野生に返してあげるとしようか。一歩一歩、公園に向かって足をすべらせながら、マコトは都合のいいように話を膨らませていった。


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